知っているようで知らない筋肉痛

筋力増強基礎
RYUKI
RYUKI

本日は誰もが一度は経験するであろう筋肉痛についてシェアしたいと思います。

はじめに

“筋肉痛”
これは理学療法士などのリハビシテーション専門職のみならず,ほとんどの人に認知されている言葉だと思います.

少しややこしいかもしれませんが、正式には「遅発性筋痛(Delayed Onset of Muscle Soreness ; DOMS)」と呼ばれます.
久しぶりに運動をした際,その運動から数時間経過後から筋肉に痛みが出現し,1~2日後に痛みのピークを迎えます.その後,5~10日前後で痛みが自然消滅する痛みのことです.皆さんもこのような経験を1度はしたことがあると思います.

さて,この筋肉痛について,皆さんはどの程度ご存知でしょうか?

今回は運動への関わりの有無を問わず幅広い人に認知されている“筋肉痛”に関して
1.実際に筋肉痛がどのようなメカニズムで生じるのか,
2.そもそも運動後に生じる痛みは本当に筋肉痛なのか,

を中心にまとめていこうと思います.

 

筋肉痛のメカニズム

結論から言いますと現在の医学ではメカニズムの解明には至っていません.しかし,日進月歩の医学において,様々な研究がなされており,5つのメカニズムが提唱されています.(Cheung K et al. / 2003)
それらを紹介していきます.

a-結合組織損傷説(The connective tissue damage theory)

遠心性収縮に伴う筋組織の損傷によって生じる.                      (Cheung K et al. / 2003)

と報告されています.さらに,

The muscle damage theory, first proposed by Hough, focuses on the disruption of the contractile component of the muscle tissue, particularly at the level of the z-line, following eccentric exercise.

(Cheung K et al. / 2003)

と報告されており,
遠心性収縮によって生じる張力が筋組織(筋膜や筋腹と腱の結合部分など)の損傷を起こすとする説です.

b-筋肉損傷説(The muscle damage theory)

上記aと同様に遠心性収縮によって生じる張力が筋組織(収縮タンパク質)の損傷を起こすとする説です.

c-乳酸説(The lactic acid theory)

筋収縮のエネルギー源の生産方法の一つである解糖系の代謝物質として
発生する乳酸が体内に溜まることで生じるとする説です.

運動中や直後は乳酸が発生します.
しかし,乳酸は運動中や運動後に新たなエネルギー源として再利用されることが言われています.
(市橋則明 他 : 運動療法学 障害別アプローチの理論と実際 第2版 132ページより)
そのため,乳酸が溜まり,筋肉痛が生じるとは少し考えにくいと思います.

乳酸が痛みの刺激!?

痛み刺激には,刃物で切るや針で刺すといった物理的(機械的;mechanical)な刺激や
43度以上の熱刺激だけでなく,生体内外で存在する化学物質(水素イオンなど),
生体内で産生される化学物質(疼痛誘発物質;ブラジキニンなど)も含まれるとされています.
そのため,乳酸が生成される過程で発生する水素イオンが乳酸で痛みが生じる原因かもしれません.

d-筋攣縮説(The muscle spasm theory)

いわゆる,筋が痙攣した状態であり,同時に血管も攣縮しているとする説です.

何より,長期的な筋及び血管の攣縮は局所循環を停滞させます.
これにより筋組織は虚血に伴い変性し,変性過程で疼痛が生じます.
“長期的な”という言葉が出てきていますが,筋肉痛は運動後5~10日後には
疼痛が消失するものであることを踏まえると,原因としては考えにくいと思います.

e-炎症及び酵素流出説(The inflammation theory and The enzyme efflux theory)

これは,a-結合組織損傷説やb-筋肉損傷説と関係が強いかもしれません.
これら損傷により,炎症反応が生じ,疼痛を誘発しているとする説です.
加えて,これら損傷により血管内や間質内(細胞間などの隙間)へ
筋細胞内に存在するとされるクレアチンキナーゼや乳酸脱水酵素が流れ出ます.
それにより,筋内圧が高まり,疼痛を誘発しているとする説です.

 

上記の5つが挙げられます。

以上より,解明はされていませんが,“結合組織,筋肉の損傷”と“炎症及び酵素流出”

がメカニズムの有力説ではないかと考えられます.

少し複雑な内容になっていますが、簡単にいうと

・筋肉を構成する各パーツ(筋膜や腱など)のつなぎ目の損傷

・筋肉自体の損傷

・痛みを感じさせる物質の出現

・筋肉内の圧が上昇することに伴う痛み

それって本当に筋肉痛?

「筋肉痛は運動をしっかりとした証拠ですね.」

こんなことを軽々と言っていた僕ですが,実際のその痛みが筋肉痛とする
はっきりとした根拠はありませんでした.
メカニズム自体が解明されていないため,根拠がないのはある意味正しいの
かもしれません.

では,どうするか?
そのような時は,筋肉痛以外で考えられる痛みの原因を考え,それらを消去
していくことことが先決かと思います.具体的には,

ⅰ.神経兆候(しびれなど)の有無
ⅱ.内科的疾患(ガンなど)の有無
ⅲ.外傷の有無

それぞれで何もなければ,消去法で筋肉痛が原因として挙げられると考えて
ます.

まとめ

・いわゆる筋肉痛とは“遅延性筋痛;DOMS”と呼ばれています.
・筋肉痛のメカニズムはまだ明らかになっていません.
・有力説として,結合組織,筋肉の損傷説と炎症及び酵素流出説が挙げられます.
・筋肉痛かどうかを判断するためには,ⅰ.神経兆候の有無,ⅱ.内科的疾患の有無,ⅲ.外傷の有無

を消去することが先決かと考えています.
・日々,新たな研究がなされており,近い将来メカニズムが明らかになるかもしれません.

引用:
・Cheung K et al. : Delayed Onset Muscle Soreness Treatment Strategies and Performance Factors. Sports Med. 2003; 33: 145-164
・岡野栄之 他:オックスフォード・生理学 原著3版.丸善
・市橋則明 他:運動療法学 障害別アプローチの理論と実際 第2版.文光堂
・山崎敦 他:オーチスのキネシオロジー身体運動の力学と病態力学 原著第2版.Round Flat

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